9年前、東日本大震災から間もない3月27日に「ことばのポトラック」をはじめたのは、津波や放射能汚染のニュースにうちひしがれて家に引きこもっているより、ことばを持ち寄って集まるほうが生きる力になるのではないか、と考えたからでした。
ところが今年はそれとは逆の事態により延期を余儀なくされました。人が集まり、顔を合わせることが危険を募らせることとなり、引きこもるよう推奨されているのです。大震災もウイルス蔓延も人間には不可抗力の事態であり、根本的な解決が容易につかないところが共通しています。人間の胆力と知力が試されているのを感じます。
今年の「ことばのポトラック」は、東日本大震災のあとに福島県大玉村で歓藍社という活動をはじめた方々をお招きする予定でした。大玉村に生まれ、ずっとそこで暮らしてこられた80代の野内彦太郎さんと、彼との出会いをきっけに大玉村で何かをはじめようと決意した生態学者の林剛平さんと建築家の佐藤研吾さんという、世代も社会体験も育った環境も異なる3人に登壇いただき、彼らの知性が行動に結びき、創造的な暮らしのあり方を模索しているさまを語っていただきたいと思ったのでした。
来年はおなじ3人に出ていただき、将来にまた起きるかもしれない震災やウイルスといった事態にどのように立ち向えばよいのか、とかく二項対立として語られる都市と田舎のあいだをどのようにつなぐことができるのかを話し合いたいと思います。
今年一年のあいだに、歓藍社の活動は加速し、彼らの土に根ざした知性はますます磨かれていくはずです。彼らの動きを注視しつつ、来年3月にはその成果を聞くためにぜひお集まりいただければうれしいです。 (2020.2.28)
「ことばのポトラック」代表 大竹昭子